リアルタイム洪水・土砂災害リスク情報マップβ版

令和2年6月17日
国立研究開発法人 防災科学技術研究所
水・土砂防災研究部門、防災情報研究部門、総合防災情報センター

国立研究開発法人防災科学技術研究所では、リアルタイムで洪水や土砂災害のリスクを把握することを目的とした「リアルタイム洪水・土砂災害リスク情報マップβ版」をウェブサイト上で試験公開します。これは雨量から推定される外力(ハザード)の情報と、被害を受ける可能性がある社会の脆弱性(バルナラビリティ)等の情報を重ね合わせることで、時々刻々と態様が拡大するとともに、災害としての影響度が深刻化する災害リスクの変化を視覚的にわかりやすく表示し、その時点での洪水・土砂災害リスクをリアルタイムでの把握を容易にするものです。
 なお、本マップが表示するリスクについてはまだ不確定要素があり、試験公開および広く一般の方々からの道路冠水や住宅浸水に関する情報提供(気象防災参加型モバイルサービス「ふるリポ!」)を募集して、皆様からご意見をいただくことにより、リスク評価のさらなる信頼性の向上やシステムの利便性向上を図って参りたいと考えております。

洪水リスク

(1) 実効雨量 ~冠水・浸水危険度を示す指標~

空から降ってきた雨は、降った場所にとどまり続けるわけではなく、地面に浸み込んだり、側溝から下水道を通って排水されたりします。一方、雨量が多い場合には、降雨が排水しきれずにその場にたまり、道路冠水や宅地への浸水などを引き起こします。そのような冠水・浸水危険度を雨量から推定する指標として「実効雨量」を用いています。

実効雨量 ~冠水・浸水危険度を示す指標~
図1実効雨量の模式図

実効雨量とは、「過去の雨の寄与を小さくして足し合わせた雨量」のことです。たとえば、図1のように1時間当たり20ミリの雨が降り続いたとします。4時間前に降った雨のほとんどは、すでに地面に浸み込んだり、下水で排水されたりして、その場にはほとんど残っていないと考えられますので、係数を掛けて重みを軽くします。一方、直前に降った雨は、その多くがまだその場に残っていると考えられますので、その重みを大きくします。このようにして、図1の青い部分を足し合わせたものを実効雨量と呼んでいます。

洪水リスクとして、1.5時間前の雨量の重みが半分になるように合計した雨量(半減期1.5時間実効雨量)を用いています。実効雨量は、国土交通省XRAIN(高性能レーダ雨量計ネットワーク)のデータに基づいて、250メートル間隔・5分更新で表示しています。

(2) 人口集中エリアにおける内水氾濫リスク

人口が集中する地域では、地面がアスファルトなどで覆われていることが多く、降った雨が地面に浸み込まずに、そのまま側溝や下水道に流れ込むことがあります。都市部の下水道は1時間に50㎜の降雨に耐えるように設計されている場合が多く、下水道で排水できる量を超えた雨が降ると、浸水が起こります。これを内水氾濫と呼んでいます。

人口集中域では内水氾濫が起こりやすいだけではなく、被害を受ける危険性のある人や資産が多量に集中しているので、内水氾濫に対する脆弱性が大きいと考えられます。「内水リスク」表示では、国勢調査で設定されている人口集中地区(DID; Densely Inhabited District)における、実効雨量から推定される浸水危険度を表示します。これにより、内水氾濫で被害が発生している可能性がある場所を一目で把握することができます。

人口集中エリアにおける内水氾濫リスク
図2「内水リスク」の表示例(2019年7月13日15時50分)。熊本市で非常にリスクが高まっている。

(3) 浸水想定区域における外水氾濫リスク

河川を流れる水があふれ、堤防を越えることを「外水氾濫」と呼んでいます。外水氾濫によって浸水が起こり得る場所は、「浸水想定区域図」として公表されています。また、気象庁と国土交通省が都道府県と共同して発表している「指定河川洪水予報」は対象とする河川の氾濫危険度を表しています。「浸水想定区域図」と「指定河川洪水予報」の情報を重ねて表示することにより、河川の氾濫危険性と、もし氾濫が起こった場合の浸水危険域を把握することができます。

浸水想定区域における外水氾濫リスク
図3「外水リスク」の表示例(2019年7月5日22時40分、天竜川の下流域)

土砂災害リスク

(1) 実効雨量~土砂災害の危険度を示す指標~

豪雨によって起こるがけ崩れは、降った雨が斜面に浸透し、地下水面が高くなることによって発生します。したがって、降雨によって地下水面がどの程度高くなっているかを診断することが、土砂災害予測の大きな鍵となっています。

土砂災害の危険度の高まりを推定する簡便な方法として、実効雨量の活用が提案されています。実効雨量とは、洪水リスクの場合と同じように「過去の雨の寄与を小さくして足し合わせた雨量」ですが、土砂災害に対しては、半減期を72時間にした実効雨量が広く用いられています。

実効雨量~土砂災害の危険度を示す指標~
図4半減期72時間実効雨量の模式図。72時間前(3日前)の雨量の重みが半分になるようにして足し合わせる。

図4は半減期72時間前の実効雨量の模式図を示しています。地面に浸み込んだ水は比較的ゆっくり移動するので、長時間にわたってその影響が続くと考えられます。

土砂災害の場合、半減期を72時間に設定することにより、数日前に降った雨の影響を考慮することができます。実効雨量の計算には250メートルメッシュの国土交通省XRAINのデータを用いています。

(2) 土砂災害警戒区域における土砂災害発生リスク

土砂災害警戒区域とは、「土砂災害が発生した場合,住民の生命または身体に危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域」として指定されている場所です。「土砂災害警戒区域」表示では、警戒区域ごとに実効雨量に基づく土砂災害危険度を表示します。ズームアップして表示することで、斜面単位での土砂災害危険度を把握することができ、具体性の高い情報として注意喚起を促すことができます。

土砂災害警戒区域における土砂災害発生リスク
図5土砂災害リスク「土砂災害警戒区域」の表示例(2019年7月7日18時10分、鹿児島市周辺)

(3) 人口集中地域における土砂災害発生リスク

土砂災害は山間地だけではなく、都市域でも起こります。特に人口密集地帯では、工事中の斜面が崩れるなど、比較的規模の小さながけ崩れで被害が出ることがあります。「人口集中地域」表示では、国勢調査で設定されている人口集中地区に、実効雨量から推定される土砂災害危険度を重ねて表示します。この表示により、人口集中域に起こる土砂災害の危険度を把握することができます。

人口集中地域における土砂災害発生リスク
図6土砂災害リスク「人口集中」の表示例(2019年7月7日18:00)。鹿児島県内の都市域でリスクが高まっている。

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