降雨は土砂災害を発生させる要因の1つであり、雨量は土砂災害の発生可能性を評価する指標として広く用いられています。これまで考案された最も簡単な雨量による土砂災害発生指標の1つは実効雨量と呼ばれるもので、雨量を以下のように重み付き積算します(矢野 1990)。
ここでRwが実効雨量で、土壌中の水分量を近似的に表現しています。Riはi時間前の1時間雨量を表し、時間が経つほど係数0.5i/Tが小さくなることによって、流出や蒸発散によって地表面から水が失われる影響を考慮しています。つまり、実効雨量は、過去に降った雨量の影響を時間とともに減少させて計算した雨量の目安です。
Tは半減期と呼ばれる定数で、T=1.5時間とT=72時間の実効雨量を組み合わせた危険度評価が広く用いられています(寺田・中谷 2001など)。
リアルタイム性と正確性の観点から、水防災オープンデータ提供サービスが配信するXRAIN(eXtended RAdar Information Network)雨量から実効雨量を求めることにしました。XRAINはCバンドレーダ雨量計とXバンドMPレーダ雨量計と組み合わせた雨量情報であり、1分毎250mメッシュの高時空間解像度を持ち、かつ、広い範囲をカバーしています。実効雨量は、10分ごとにXRAIN雨量から前1時間雨量を算出し、式(1)によって求めています。
ここで、平成24年九州北部豪雨の被害事例とレーダに基づく実効雨量の関係について以下に紹介します。平成24年(2012年)7月九州北部豪雨では、7月11から14日かけて九州北部(福岡県・熊本県・大分県・佐賀県)を中心に発生した記録的な豪雨が、河川の氾濫、浸水、土砂災害を引き起こし、多大な被害が生じました。図1に、実効雨量の分布図を示します。
災害後のヒアリング調査によると、図1の★で示す熊本県阿蘇市で生じた土砂災害は、7月12日5時~6時頃に崩壊が生じたと考えられています。熊本県阿蘇市では、7月11日から12日6時の総雨量が500ミリを超える大きな雨量でした。この図より、土砂災害が発生した時間(7月12日の6時)には、熊本県阿蘇市周辺の実効雨量が大きな値を示していることがわかります。
注:図1の実効雨量は気象庁5分毎1kmメッシュ全国合成レーダエコー強度GPVと国土交通省XバンドMPレーダネットワーク(旧XRAIN)による雨量情報、2種類のデータから5分間隔で求めました。両データの合成は防災科研が2010年に開発、特許(第5557082号)を取得した合成雨量作成手法を用いました。なお、実降雨量の算出において、5分ごとに半減期係数を掛けています。即ち、5×j分前の5分間雨量をR'jとすると、式(1)は以下のようになります。